筆塚稔尚 テキスト

雲を人に見立て、ビュランでねじ伏せるように作品を制作していた時があります。人の強い、意志の「うねり」のようなものが現れても、神出鬼没で、つかみどころない心の揺らぎは現れてこなくて、四苦八苦して少し時間をおこうと考えました。

数年前、印刷博物館から小説家ほしおさなえさんとの版画集「雲の輪郭」の制作、続いてSHIMOGUITARSのルシアー(ギター製作者)志茂崇弘さんの全制作ギター集の表紙を飾る版画制作の話を編集者から頂き、柔らかな表現を求めて初めてメゾチントという技法に向き合う機会が訪れました。
一昨年の「アマビエ」展でも、メゾチントで雲をモチーフに制作しました。ビュランでは現わせなかった柔らかで、つかみどころのない雲がやっと現れました。 メゾチントが自分の知らなかった自分を見つけるきっかけをくれました。

・・・もっと早く手を伸ばしておけばよかった。
それでも必要に迫られて手を出したのだから、そういう時だったんだと素直に受け入れています。
それまでぼんやりと温めていた「自分がメゾチントをするなら・・・」と、メゾチントへの自分の観る側としての想いと、作り手としてのアイデア。それを可能にする道具や刷り方など思い付く方法を色々試してみました。初めて使う技法の新鮮さ、妄想を「絵」に現わす、版に向かう際の武者震いにも似た勢いで、何とか4年かけて作品が出来上がりました。

赤ん坊でも4歳にもなれば会話が成り立つし、抵抗もするようになります。4年前に大学に入学した学生は卒業です。今は、コロナを理由にこの時期これ幸いとサナギのように引き籠り、前回の新作展から4年ぶりに地上に這い出た・・・といったところです。

筆塚稔尚 Fudezuka Toshihisa

1957 香川県生まれ
1983 東京芸術大学大学院 版画専攻 修了
1989–1990 カナダ政府給費留学 アルバータ州立大学(カナダ)
1990–1991 オタワ・スクール・オブ・アート 講師(ジャパン・カナダ・ファンド)
1999–2000 文化庁芸術家在外研修員として、クラコウ美術大学・ウッジ美術大学(ポーランド)

■ 画廊企画展
アート工房クアトラ(広島)・あーとらんどギャラリー(香川)・アートゾーン神楽岡(京都)・みさき画廊(大分)・ザ・トールマンコレクション(東京)・諄子美術館(岩手)・ヒロ画廊(和歌山)・柳沢画廊(埼玉)・養清堂画廊(東京)
ほか、国内外にて個展100回以上。展覧会の企画・運営を多数手がける。

■ 美術館企画展・国際展・グループ展・受賞
2023 「版とことば」展 ギャルリプチボワ(大阪)
2022 岡田まりゑ・筆塚稔尚 二人展 ヒロ画廊(和歌山)
   Seed Stories 展(2022– )
2020 「京都空想装丁室」展 アートゾーン神楽岡(京都)
2019 「コレクション+ギホウのヒミツ〈版画編〉」高松市美術館(香川)
   「Pianissimo」展 ビュランによる三人展 アートギャラリーミューズ(群馬)
2018 「冬の図書館」展 Gallery FUURO(東京)
   「西洋版画を視る―エングレービング:ビュランから生まれる精緻な世界」国立西洋美術館(東京)
   「秋の図書館」展 岩崎ミュージアム(神奈川)
2017 《プチボワ文庫》展 ギャルリプチボワ(大阪)
   CROSSPOINT 展 香川県ミュージアム企画展(香川)
2016 tribuna graphic 2016 クルジュ=ナポカ美術館(ルーマニア)招待出品
2014 Hangzhou Art Fair(杭州・中国)
2013 “world printmaking one” Mile End Art Pavilion(ロンドン・英国)
   “25 × 25:現代日本・オーストラリア版画”展(シドニー・オーストラリア)
2010 「日本現代版画展」ティコティン美術館(ハイファ・イスラエル)
2006 バハラート・バハマン国際版画ビエンナーレ(インド)招待出品

■ 収蔵先
滋賀県立近代美術館・宮城県立美術館・東京国立近代美術館・埼玉県立近代美術館・黒部市立美術館・塩釜市民図書館・大阪府立現代美術センター・カナダ・カウンシル(カナダ)・クリーブランド州立美術館(アメリカ)・大英博物館(イギリス)・ティコティン美術館(イスラエル)・クラコウ国立演劇大学(ポーランド)・ウッジ国立美術館(ポーランド)・パリ国立図書館(フランス)・ドレスデン州立美術館(ドイツ)・ほか