テキスト 今村由男
春、野山は新しい命が競い合うように萌え、夏、植物や動物は生命を謳歌しやがて実りの秋を向かえる。季節は巡り、木枯らしが吹き野山は白いベールで包まれる。移ろう命の連鎖をみていると人間もただの動物であることを気づかしてくれる。
命あるものは必ず終え、形あるものは必ず朽ちていく。なにも変わらないように見える風景さえも地球の歴史をフィルムの早回しのように短縮してみればダイナミックに変化しているだろう。私の作品はそうした移りゆく時の記憶としてのイメージを銅版に封じ込め、紙に写し取っていく。
自然を見ていると人間の浅はかな知恵というものがいかにつまらないか教えてくれる。野山に咲く愛らしい花や葉っぱ、幹の形や色はどんな彫刻家でも絵描きでも表すことの出来ない美しさをたたえているし、枯れてなお美しい色やマチエールを見せてくれる。野山を歩いて制作のヒントをたくさんもらってくる。
子供の頃、遊びの舞台はもっぱら山や川。樹間から仰ぎ見る星空の美しさ、雨や風、雲。自然の神秘は子供心に畏敬の念や命の儚さを感じていた。そうした子供の頃の感性が心の奥に沈殿して現在の作品にそのイメージが現れてくる。
自作の事をあらためて考えてみると、自分の生まれた環境こそが作画の動機である。
雑誌 DARUMA 掲載テキスト 今村由男
アトリエは東京からは車で4時間はかかる遠隔の地にある。周囲をアルプスに囲まれ雄大な景色を見ながら都会の喧噪から離れ、季節の移り変わりの中で制作をしている。
春、野山は新しい命が競い合うように萌え、夏、植物や動物は生命を謳歌しやがて豊穣の秋を向かえる。季節は巡り、木枯らしが吹き野山は白いベールで包まれる。そうした移ろう命の連鎖をみていると人間もただの動物であることを気づかしてくれる。
命あるものは必ず終え、形あるものは必ず朽ちていく。なにも変わらないように見える風景さえも地球の歴史をフィルムの早回しのように短縮してみればダイナミックに変化しているだろう。私の作品はそうした移りゆく時間の記憶としてのイメージを銅版に封じ込め、紙に写し取っていく。
自然を見ていると人間の浅はかな知恵というものがいかにつまらないか教えてくれる。野山に咲く愛らしい花や葉っぱや幹の形や色はどんな彫刻家でも絵描きでも表すことの出来ない美しさをたたえている。また日本の古い山村の建築物も移りゆく時の流れの中で朽ちて美しい色やマチエールを見せてくれる。野山を歩いて制作のヒントをたくさんもらってくる。
20代はアメリカの現代美術から影響を受けた作品を描いていた。しかし自分は果たしてどこに足をつけているのかと疑問を持つようになった。挫折しすっかり美術への情熱が失せているころある美術雑誌に現代版画の特集が載り、中でも東京芸大教授であった中林忠良氏の作品に強い衝撃を受けた。
氏に熱い思いを手紙にしたためると、やがて氏から心温まる返事を頂き以来、現在まで私淑することになる。後年、文化庁在外研修員として中林先生から推薦を受けてパリに国費留学をした。
日本の美術は明治以降、西洋の亜流であることを良いとされてきた。特に美術評論家はこぞってヨーロッパからアメリカへと続く美術の文脈でしか評論をしていない。江戸時代に花開いた浮世絵が西洋の美術に深い影響を与えてきた事を忘れてしまっているのだ。言うなれば日本の美術から影響を受けた後期印象派の絵から逆影響されるというパラドクス。
日本美術回帰とはいえ性急に日本的情緒を醸した表現に向かうのはいかがだろうか。表面的な日本趣味ではなく日本人であることで自然にでてくる感性にゆだねてみたいとも思う。そうした意味では桃山時代に花開いた琳派には心ひかれる。
私は母の生まれた山の中に戦争の疎開で移住しそこの貧しい一軒家に生まれた。子供の頃はどうしてこんなに貧しい家に生んでくれたのかと恨みもしたが絵で生きている今になって思えば幸福である。
鉢の底のようなそこの場所は近くに一軒家があるもののわずかな畑と雑木林、近くには小川が流れていた。お日様も角度にしてせいぜい90度だけ顔を出しているだけで夕方も早い内に沈んでしまう。遊びはもっぱらそうした小川や雑木林。鉢の底のような家からは夜になると満天の星がプラネタリュームのようにみられ天文好きの感性はそうした環境から醸成された。
そうした何もない山の中で遊んだ子供の頃の感性が心の奥に沈殿して現在の作品にそのイメージが現れてくる。自作の事をあらためて考えてみると自分の生まれた環境こそが作画の動機である。
今村由男 Imamura Yoshio
1948年 長野県生まれ/中林忠良氏に師事 日本版画協会会員
1991年 フランス、アトリエコントルポワンに留学、1版多色刷り銅版画研修
1997年 平成9年度文化庁特別派遣芸術家在外研修員として国費留学 パリ
2001年 スペインカダケス国際版画ビエンナーレ審査員
2008年 日本版画協会展A部門審査長
2011年 Asilah 市(モロッコ)アートフェスティバル招聘、滞在制作
2013年 韓国国際版画レジデンス(大田)招聘滞在製作
2017年 韓国南ソウル大学アートセンター招待 今村由男展
2018年 中国深圳Guanlan版画博物館 アーチストレジデンス招聘滞在
主な国際展、国内展・受賞
1987年 87年期待の新人作家大賞展/買上賞
1988年 第56回日本版画協会展/賞候補・準会員推挙
1989年 第4回ニューヨーク国際ミニアチュールプリントビエンナーレ展受賞
第1回バラトヴァバン国際版画ビエンナーレ/特別賞
第57回日本版画協会展/準会員賞
第15回日仏現代美術展/佳作賞/フランスソワール賞2席90年も受賞
/ フィガロ賞3席90年も受賞
第9回フレッヘン国際版画ビエンナーレ作品買上
文化庁現代美術選抜展(日本巡回)
1991年 第17回日仏現代美術展/フランスソワール賞1席
クラコウ国際版画トリエンナーレ(ポーランド)
1993年 第20回リュブリアナ国際版画ビエンナーレ
1994年 1994クラコウ国際版画トリエンナーレ(ポーランド)
1995年 パシフィックリム国際版画展/ハワイ州教育・芸術財団買上賞
97年2000年も受賞
1996年 第64回日本版画協会展/準会員賞・会員推挙
文化庁現代美術選抜展(日本巡回)
1998年 第3回フィンランド国際ミニプリント展/特別賞
2000年 第20回カダケス国際小版画展/受賞
2008年 ニュージーランドパシフィックリム国際版画展/審査員特別賞
2009年 ソウル空間国際版画ビエンナーレ/買上賞
クロアチア、スプリト国際グラフィックアートビエンナーレ特別賞
2011年 ソウル空間国際版画ビエンナーレ 受賞
2011年 CWAJ 現代日本版画展第一回運営委員会賞
2017年 中国深圳Guanlan国際版画ビエンナーレ
2018年 クロアチア国際版画ビエンナーレ、スプリットグラッフィック グランプリ
2018年 Balna国際版画ビエンナーレ(ブルガリア)
他国内、国際版画コンクール多数入選
作品はアメリカ、イスラエル、ドイツなど世界20カ所以上の美術館に収蔵されている。