周 豪 展

会期/2004年 1月10日(木)〜 2月1日(日)

11:00am〜8:00pm 
 土・日曜日: 11:00am〜6:00pm  休廊:水曜日と第2・第4火曜日
会場/あーとらんど ギャラリー 

出品/新作版画、モノタイプ

あーとらんどギャラリーでは、周 豪の新作版画およびモノタイプの展覧会を開きます。彼は1960年に中国・上海に生まれ、高校卒業後日本の美術大学に入学して版画と油彩画を学び、現在横浜を拠点に活動しています。今回の個展は2000年に続き2度目。彼の作品には壮大な空間が感じられます。あたかも自然の風景を目の前にしてどこまでも意識が広がっていく奥深さに心が和むのです。この感覚は一体どこからやってくるのか、彼の作品の持つ魅力の一端を覗いてみようと思います。

■ 「即興性」が創作の原点■
 「‥‥‥イメージが出来ていたら、なにが描きたいか分かっていたら、何もわざわざ描く必要がない、‥‥‥。‥‥‥‥‥(頭の中にある)イメージ通りのものを描くことは、僕にとっていわば結末のわかった推理小説を読むようなものである。」このように語る周の創作の原点には「即興性」があります。朝起きて顔を洗い歯を磨くように、彼の創作には特別の構えはありません。毎日の習慣がいわば意図しない無心状態であるように、彼の描くという行為もその延長線上にあります。

 彼が最初に版の中でもリトグラフを利用し始めたのは、「描くことがそのまま版になる」というこの技法の特徴が、彼の「即興性」を十二分に生かせるからに他なりません。リトグラフは、ペンや筆で紙に描くように日常の道具で石灰石に描くことで版を制作でき、モノタイプも金属や紙の上に絵具などで直接描いて 乾かないうちに紙などに写し取るため、 彼にとっては最適な方法だったのです。

 しかし、「即興」という方法は手軽に誰でも可能な反面、「マンネリ化」するという危険性を孕んでいます。彼はそれを克服するために自分自身の脳と身体が飽きるまで作品を描き続けるという逆説的な手法をとっています。これはある意味では苦行僧のような「身体を解脱して悟りに至る修業」と似ているかもしれません。

■ 希有壮大な試み‥‥‥‥有限と無限の均一化 ■
 周がリトグラフやモノタイプという「版」を多様するのは「即興性」を活かす目的以外に、「表現の意外性」を取り込みさらに「独自の絵画空間」を創造するという2つの目的があげられます。
版における「表現の意外性」とは、描いたものを紙に転写することによって初めて現れる予期していなかった効果のことで、周はそれを創作に必要不可欠な要素として積極的に取り込み、「描くという方法では不可能な表現領域」への展開を計っています。さらに彼は転写という行為を、いわば描いたものを作り手から遠ざける‥‥‥‥さらにいえば、人が作ったものとしての様相から遠ざけ、人間の能力を越えて大いなる存在の領域にゆだねるような方法として、自らの表現内容に組み込もうとしているのかもしれません。

 もう一つの「独自の絵画空間」とは、周の作品に特徴的な画面構成である「イメージ(絵の具が施された面)」とその「周辺(絵の具が施されていない面)」との異質な空間を結合させることによって創造する新たな絵画空間です。「イメージ」によって創られる絵画空間は紙への転写により平面化(2次元)されるため、版のときに持っていた絵の具の表情と盛り上がり(3次元)は物理的には表面上その存在が失われたかのように見えます。
しかし周はこの版の特徴を逆手にとって紙の背後への負の盛り上がりという隠された表現として活用し、眼に見える絵画空間から眼に見えない絵画空間への変換‥‥‥‥眼という表層からその背後に存在する脳に直接働きかける絵画空間を創造しています。これは逆説的な言い方をすれば、間接的な絵画空間(虚構ーイリュージョン)から直接的な絵画空間(実在ーリアリティ)の創造への転換ともいえるでしょう。

 このように彼の作品の場合には「イメージ」が眼に見えない絵画空間へ変換されているため、元々何もなかったその「周辺」が眼に見える絵画空間として浮かび上がってきます。あたかもプラス・マイナスの電極の均衡が破れたときのように、描かれた「イメージ」が「マイナスイオン」を帯びることによってその「周辺」が「プラスイオン」を帯びるようになるというわけです。

ここでは「イメージ」と「周辺」との新たな関係が、小説における文章と行間のような関係として成立します。文章の持つ意味空間が行間という意味空間の背後の心理空間を生み出すような関係‥‥‥‥‥周は「イメージ」とその「周辺」との絵画空間をこのような関係として成り立たせるために、画面には境界線を引きません。彼の考える境界とは彼の描く「イメージ」の境界であってそのイメージが存在する空間には境界がないからです。
この「イメージ」としての「有限な絵画空間」と境界の存在しない「周辺」としての「無限の絵画空間」‥‥‥‥‥この有限と無限の空間を結合するという希有壮大な試み‥‥‥‥ここにこそ周の作品が持つ本質的な意義と魅力が存在しているようです。

■ 展覧会 ■
 今回のあーとらんどギャラリーでは、リトグラフによる新作版画およびモノタイプ作品を出品いたします。サイズ的には、約60×90cmの大型作品から約20×25cmまでの小品まで、約30余点の作品を展示する予定です。彼の生み出す「有限と無限の空間の結合によって生み出される独自の絵画空間」がどのようなものか、是非ご高覧頂きますようご案内申し上げます。  尚、下記の企画展講座を初日に開催しますので、是非多くの方にご参加いただきますようご案内申し上げます。

 ■企画展講座‥‥ 「何で版なのか!!」〜表現力〜
  「版」とは? どうして「版」なの? 版による表現を続けてきた作家が、表現力の源泉にせまります。どんな話が飛びだしてくるか、ご期待下さい。

  日 時 : 2003年1月10日(土) 午後7:00〜8:00
  会 場 : あーとらんどギャラリー
  講 師 : 周 豪
  費 用 : 無 料  

周 豪 ZHOU Hao

略歴・主要展覧会歴・収蔵先

略歴

1960年、中国・上海市に生まれる。6歳から高校までの約10年間を文化大革命の時代に過ごす。

1983年、私費留学のため来日。翌1984年、武蔵野美術大学造形学部油絵学科に入学。 3年次に新設された版画コースへ進み、同コースの第一期生としてリトグラフを学ぶ。 この時期から作品は次第に抽象的な表現へと変化していった。

同時期に柳宗悦の民藝思想に触れて感銘を受け、鈴木大拙の禅に関する著作などをきっかけに、 自国の古典文化を意識するようになる。 老荘思想の書物を繙く一方、日本および西洋の現代美術にも関心を寄せた。

1987年、小山敬三美術振興財団の奨学金を受け、 第1期アジア美術留学生として山梨県の白樺美術館で滞在制作を行う (東京吉井画廊協賛)。

1988年、武蔵野美術大学造形学部油絵学科版画コース卒業。 1989年、日本政府(文部省)奨学金を受ける。 1990年、武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻版画コース修士課程修了。

大学院修了後、東京・東麻布にあった益田祐作主宰の版画工房MMGに入社。 描版と刷りの仕事に携わりながら、自身の版画作品の制作・発表を続ける。 2003年に退社し、以後、作家活動に専念する。

2008年、2010年の二度にわたり、益田祐作の斡旋により、 フランスの Atelier Rémy Bucciali で銅版画を制作。 2016年、LOVEART – Summer Artists Residence Project に参加し、 イタリアで滞在制作を行う。

上海と横浜を拠点に生活し、制作活動を続けた。 日本と中国を中心に個展を開催するとともに、 国内外の国際版画展やアートフェアに参加した。

2023年9月、逝去。享年62。

続きを読む 閉じる