「個展に際して」 周 豪
あーとらんどギャラリーでの個展は2年に1度のペースで、お陰さまで今年つい3度目を迎えました。又 丸亀の皆さんに新近の作品を見ていただけるのを思うと、不安ながらもとても嬉しく思います。
画廊オーナーの山下高志さんとも、昨年上海アートフェア以来の再会となります。上海では忙しい毎日だったけれど、美味しい食べ物、現地の画廊や作家との交流、街歩きなどなど、楽しい思いで一杯詰まった9日間でした。何よりも、山下さんと思う存分様々のお話が出来たことが非常に良かったと思います。
ところで、今展の出品作ですが、墨によるドローイングの他、昨年から新たに試みた掛軸仕上げのモノタイプ作品も10点ばかり並べます。軸装作品に関し敢えて付け加えるならば、これらは現代の空間に溶け込み易いように出来るだけシンプルな軸装スタイルにこだわってみました。
作品の見せ方は、今までほとんど額縁に入れての方法を採って来ましたが、軸装したドローイングやモノタイプが、掛軸の中で何とも居心地よさそうに息しているのを見て、思わず祖先の知恵に感激の念を抱きました。同様の作品は先日の上海、東京、神戸の個展の時も思いのほか好評を得ました。
作品発表の当初から、「東洋的だ」と よく評されてきました。しかしこれを意識して制作したことはありません。でもここ1、2年、ついに「先祖帰り」でも起きたかのように、墨や軸装などに強く惹かれています。そんな中、香港やドイツでの発表も相次いで決まりました。
ここでふと思い出すのはあのミロの「真に世界的になるためには、民族的に徹すべきだ」という内容の言葉です。無論これを鵜呑みにしていいものかどうかは迷ところですが、兎に角一つ一つ越えていくように今後の制作に励んでいきたいと思います。
略歴・主要展覧会歴・収蔵先
1960年、中国・上海市に生まれる。6歳から高校までの約10年間を文化大革命の時代に過ごす。
1983年、私費留学のため来日。翌1984年、武蔵野美術大学造形学部油絵学科に入学。 3年次に新設された版画コースへ進み、同コースの第一期生としてリトグラフを学ぶ。 この時期から作品は次第に抽象的な表現へと変化していった。
同時期に柳宗悦の民藝思想に触れて感銘を受け、鈴木大拙の禅に関する著作などをきっかけに、 自国の古典文化を意識するようになる。 老荘思想の書物を繙く一方、日本および西洋の現代美術にも関心を寄せた。
1987年、小山敬三美術振興財団の奨学金を受け、 第1期アジア美術留学生として山梨県の白樺美術館で滞在制作を行う (東京吉井画廊協賛)。
1988年、武蔵野美術大学造形学部油絵学科版画コース卒業。 1989年、日本政府(文部省)奨学金を受ける。 1990年、武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻版画コース修士課程修了。
大学院修了後、東京・東麻布にあった益田祐作主宰の版画工房MMGに入社。 描版と刷りの仕事に携わりながら、自身の版画作品の制作・発表を続ける。 2003年に退社し、以後、作家活動に専念する。
2008年、2010年の二度にわたり、益田祐作の斡旋により、 フランスの Atelier Rémy Bucciali で銅版画を制作。 2016年、LOVEART – Summer Artists Residence Project に参加し、 イタリアで滞在制作を行う。
上海と横浜を拠点に生活し、制作活動を続けた。 日本と中国を中心に個展を開催するとともに、 国内外の国際版画展やアートフェアに参加した。
2023年9月、逝去。享年62。